電気自動車用充電器の開発効率を向上
電気自動車用充電器の開発効率を向上
課題
- 短期間での製品開発
- 複数領域にまたがる設計ワークフローの統合
- 製品開発における情報の縦割りを解消
- 契約メーカーとのコミュニケーションを向上
成功の鍵
- 機械、電気、電子設計とテクニカル・パブリケーションを統合したソリューションを導入
- シーメンスのソリューション・パートナーであるADOPT id PLMによるトレーニングやサポートを活用
成果
- 設計の反復作業を効率化
- ミスを削減
- 完全かつ正確な設計および製造ドキュメントを作成
パートナーについて
ADOPT id PLM
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ADOPT id PLM
Solid EdgeポートフォリオとPADSを使って機械、電気、電子設計の統合を実現したeNovates
「仮想プロトタイピングにより、モックアップや試作機の作成を80%も減らせました」
電気自動車のエコシステムをサポート
eNovatesは、モビリティと持続可能性を原動力として急成長するテクノロジー企業です。同社は2010年に、電気自動車のエコシステムを支える充電システムやエネルギー管理ソフトウェアの開発・製造に特化したビジネスクラブのシンクタンクとして設立されました。
eNovatesはEU (欧州連合) 域内で事業を展開しており、公共充電インフラの供給において重要な市場シェアを獲得しています。2021年の始めまでに充電ステーションを約8万か所設置しています。また、スマート・エネルギー管理にも事業を広げており、V2G (Vehicle-to-Grid) 充電器も製品ポートフォリオに追加しました。同社の顧客は、充電スタンドを販売して充電網につなげ、メンテナンスを提供するチャージ・ポイント・オペレーター (CPO)、つまり充電サービス事業者です。eNovatesは、OEM (相手先ブランド製造企業) としてCPOパートナーに製品を供給します。
eNovatesの研究開発 (R&D) マネージャー、Stijn Vispoel氏は次のように説明します。「顧客企業のなかには、最終製品の漠然としたイメージしかない状態で問い合わせてくる企業もあります。このようなケースでは、一連の汎用プラットフォーム・コンポーネントと製品をもとに、顧客に合った最適な製品をカスタマイズしています。一方で、外装だけを用意して、それに合う充電器の開発を依頼されるケースもあります。私たちは、顧客企業からの依頼に対応したあらゆるプロジェクトを実施しており、いずれの製品も機械/電気/電子/ソフトウェアの各コンポーネントによって構成されます。」
絶えず変化する要件に対応した製品開発
電気自動車のエコシステムでは、技術や法規制、規格、顧客要件が急速に進化しています。「最大の課題は、市場の指針が絶えず、そして急速に変化していることです。私たちは、あらゆる新たな動きに精通しながら、毎年のように新製品を開発しなければならないのです。充電スポットの要件変化に対応できる十分な研究開発能力を備えることが重要です。もう1つの課題は、ヨーロッパでも国によって規制が異なることです。例えばオランダの顧客とフランスの顧客では、要件が異なります。」とVispoel氏は語ります。
Vispoel氏の率いるチームは、機械、電気、電子工学のさまざまなバックグラウンドを持つプロジェクト・マネージャーやサポート・スタッフで構成されます。Vispoel氏は次のように説明します。「各プロジェクトはまずプロトタイピング段階から始まり、必要なプリント回路基板や電気配線、機械部品を開発します。これらのデジタル設計ファイルをすべてチェックしたら、いくつか試作機を作成してテスト稼働させ、顧客要件や規制要件を満たしているかどうかを確認します。それが済んだら、アルファ段階と呼んでいる工程で、修正が必要な部品をすべて再設計します。ここでも30~50台程度の充電器を製造し、再度検証のために稼働させて温度試験や高電圧試験を実施します。一部のお客様には、この段階で製造した充電器を使って自動車を充電していただき、さらなる試験を実施します。」
eNovatesは開発の次の段階「ベータ段階」で、必要に応じて設計を修正し、新たな製品を製造します。「ベータ版の充電器は直接認証試験所に持って行き、顧客現場にも約100台の充電器を設置します。こうすることで、十分に成熟した製品であり、市場に向けて完全認証できるレベルであることを確認できるのです。この段階では通常、これ以上のハードウェア開発は行わず、ソフトウェアの最終調整をするだけです。この後、いよいよ顧客向けに生産を開始します。」とVispoel氏は言います。
統一感のないシステムと情報の縦割り
eNovatesは、これまでにMCAD (機械系CAD) 用のエンジニアリング・ソフトウェア・システムと、2つの異なるPCB (プリント回路基板) 設計ソリューション、電気ワイヤハーネス設計用のシステムを導入してきました。これらのシステムは、エンジニアが以前から使っているものだったり、パートナーや顧客が使っているものだったり、という理由から選んだものです。
しかし、このようにして導入したソフトウェア環境には限界がありました。MCADシステムには電気設計機能がなく、ワイヤハーネス設計システムには3D機能がありませんでした。また、どちらのシステムもPCB設計ツールとは容易にデータ交換ができません。連携のとれていないこの4つのバラバラなソフトウェア・ソリューションは情報の縦割りを招き、領域間のコラボレーションを阻んでいました。各ソフトウエア・パッケージが使用するデータ・フォーマットがそれぞれ異なることが、領域間の情報伝達の妨げとなります。また、各ソフトウェアを別々のベンダーから購入していたため、1つのソフトウェアを新しいバージョンにアップグレードしても、その他のソフトウェアとは同期されません。また、サポートもそれぞれバラバラに受けなくてはなりません。
このような環境では、機械設計チームが設計モデルを作成して電気チームに送ると、電気チームは設計データを修正し、再び機械チームに戻すことになります。設計データの往復作業が数週間も、数か月以上も続くため、設計や試作に膨大なコストがかかり、製品化が遅れる原因となりました。システム間の情報の縦割りや障壁によって、eNovatesは電気設計を機械設計空間に適合させることに苦慮していたのです。また、契約メーカーへの設計情報の伝達にも問題がありました。eNovatesが契約メーカーに渡していた製造用の設計データは、分かりにくい断片的な詳細情報だったため、要件や規制面で問題が生じました。
エンジニアリングの各領域と各ソリューションを統合
eNovatesは、非効率なワークフローを改善するために、速い開発ペースに対応した統合ソフトウェア・ツールセットを探し始め、ゲント大学の関係者からSolid Edge®を紹介されました。Solid Edgeは、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアが提供するソリューションとサービスを包括したXcelerator™ ポートフォリオの一部であり、業界を代表する製品開発プラットフォームとして知られています。
eNovatesは、ベルギーを拠点とするシーメンスのソリューション・パートナーであるADOPT id PLMにコンタクトしました。初回のミーティングを終えたADOPT idは、eNovatesのためにSolid Edgeと、Solid Edgeに統合されている電気設計とテクニカル・パブリケーション・ツールを含めたプレゼンテーションを作成しました。このプレゼンテーションで、Solid Edgeの機械設計、電気ワイヤハーネス設計、テクニカル・パブリケーションのすべてのツールが完全に統合されていること、使用するデータ・フォーマットとユーザー・インターフェースがすべて同じであることを説明しました。ADOPT idはまた、PCB設計および検証用にシーメンスEDA (旧メンター) のPADS Professionalソフトウェアを使用することも提案しました。こちらもSolid Edgeに統合されています (PADSのサポートはシーメンスEDAのソリューション・パートナーであるInnofourが担当)。さらに、機械、電気、電子領域間の双方向のデータフローと相互関連付けにより、各領域で加えた設計変更はその他の領域に自動で反映される点も強調しました。
eNovatesはいくつかの理由から、提案されたシーメンスのソリューションを選択することを即座に決めました。Vispoel氏の説明はこうです。「当社の速い開発ペースに対応した効率的な設計フローを実現できるように、すべてのソフトウェア・ツールが連携することを望んでいました。品質基準が高く、効率的な生産が求められる複雑な製品では、情報を非常に効率よく伝達する必要がありました。シーメンスのソフトウェアは、設計の反復作業で生じるミスを軽減するのに適したソリューションです。ここまで完成した統合機能はエンジニアリング・ソフトウェア市場のどこを探しても見つかりませんでした。私たちはシーメンスを非常に大きなテクノロジー・プロバイダーであり、ソフトウェアのマーケット・リーダー、そして高い品質を実現するブランドとして評価しています。」
製造用の設計ドキュメントを作成
「当社は製造を完全委託しているため、製品をどのように製造、テスト、パッケージングするかという完全な情報を契約メーカーに提供する必要があります。彼らは、その情報をもとに製品を製造します。私たちが提供する作業指示に基づいてすべての部品を調達し、すべてのPCBを作成し、すべてをテストしています。」とVispoel氏は話します。
eNovatesがこれまで使っていたソフトウエア・ソリューションでも、機械設計を表現した3Dファイルや電気図面のほか、機械、電気、PCBコンテンツをそれぞれ作成するための3つの部品表 (BOM) を提供できていました。 しかし、情報が十分に統合されておらず、提供方法が効率的ではありませんでした。
Solid Edgeのテクニカル・パブリケーション・ソフトウェアによってeNovatesは、製造用のデータを作成するための優れたソリューションを手にしました。製造パッケージに含まれるBOMは、製品全体で1つに統合されるようになり、価格を設定する際に特に便利になりました。PCB製造に関しては、PADS Professionalソフトウェアを使って作成した標準フォーマットのファイルに、各物理基板の層に関する情報や、銅配線、ビア、パッド、ソルダーマスクといったPCBオブジェクトの座標が含まれます。電気領域の製造に関しては、Solid Edgeの電気設計ソフトウェアで作成したケーブル・リストとその位置、接続情報、カット長、結線ネジに必要なトルクなどを、Solid Edgeのテクニカル・パブリケーション・ソフトウエアで抽出することができます。テクニカル・パブリケーションソフトウェアは、Solid Edgeの3Dモデルを使って、製品の組み立てやテスト・プロセスの各手順をビジュアル的に詳細に記述することができます。
合理化したワークフローが効率を向上
新しい統合ツールセットによって、eNovatesは開発および製造サイクル全体で効率向上のメリットを得ています。「私たちに大成功をもたらしました」と話すVispoel氏。
Solid Edgeの3D設計ソフトウェアが備えるシンクロナス・テクノロジーによって、eNovatesはどんな CADでさくせいされたかを問わず、データを編集できるようになり、内蔵の製品データ管理ツールやクラウド・コラボレーション・ツールも利用することができます。また、Solid Edgeの電気設計ツールは、eNovatesが必要としていた機械アセンブリの3Dワイヤハーネス設計および検証にも対応しています。
Solid Edgeのテクニカル・パブリケーション・ツールは、包括的なファイルによって、製造情報の明確性、正確性、完全性を向上させました。また、PADS ProfessionalをSolid Edgeに統合したことで、PCB設計者と機械エンジニアのコミュニケーションも強化しました。